「死にたいの?」
と、あなたは聞いた。
「望んでなんかない。けど、別に、死んでもいいと思ってる」
答えると、あなたはためらいながら、また聞いた。
「なんで?」
この前わたしが一人で考え抜いたセリフを口にする。
「だって、どちらもつまらないから」
生きること、死ぬこと、どちらもよくわからない。生きる意味も、死ぬ意味もわからない。だから、どちらでもいい。どちらも望んでなんかいない。そんなところ。
よくできた答えでしょう。わたしは満足した。
あなたが何て言うか楽しみにしていたら、
「本当は、生きていたいのに」
言われてしまった。
それから、わたしを抱きしめる。わたしの腕から出ている血で服が汚れるのも気にしなかった。せっかく真っ白に洗濯してあるワイシャツなのにもったいない。生きていたいな、あなたとずっと一緒にいられるなら、幸せだな。そうは思う。だって、こうやって心配してくれる人ってあなたしか知らないから。
「死んでもいいのは本当だよ」
わたしはもっと深く悲劇のヒロインを続けたくてそう言う。
「でも、死ぬ理由が見つからないんだろ?」
また、知ったふうに。
「うん、そうかもね」
わたしは握っていたカッターを落として彼の腰に腕を回した。あったかい。こうしてくれるのだったら、自分から腕などいくら切り刻んでも痛くなかった。
綺麗な、綺麗な、赤色だ。
わたしの誕生日は誰からも祝われない金曜日だった。わたしがプレゼントに気づいたのは、誕生日から三日も経った月曜日の学校だった。
ロッカーで見つけたその手紙には、あなたの字で祝いの文章が綴られていた。
『僕は理由を見つけられた。だから、』
その手紙の文字は真っ赤なペンで書かれていた。
水性だったのか、すぐ滲んでしまった。それでも頬を伝う涙は容易く止めることができない。
三日前だった。
おばさまが純白を好んで、それを基本としていた、あなたの家のリビング。まったく調和も見られない狭いわたしの家で、ただひとつ和みをもった若草色の畳。
みんな愛していたけれど、全部わたしの誕生日に真っ赤に染まった。きれいだな、って思った。でもそれは寂しい色をしていた。
その日、投げやりなおばさまも、怒りん坊なおじさまも、やりたい放題だった弟さまも、ついでに手を上げることしかない父さんも、そして、一番に愛していたあなたも、一瞬でわたしの好きな色で染め上げられた。それはとても素敵な出来事だった気がする。
でもね、わたしが見たのは後に残った、浅くて汚い色だったの。
『たぶん、一生忘れられないほど素敵な誕生日になっていると思う。』
この手紙を読んで確信した。そしてやはり最高なプレゼントだったのだと納得した。
涙が止まらない。滲んでしまう。全部滲んで、あなたの残した字がなくなってしまう。
あなたは、出会った頃からいつまでも、どこまでも意地悪だった。
わたしの笑わない顔も好きだと言った。そんなあなたが、本気でわたしを愛していてくれたのは、どうしてか今さら知ってしまった。わたしのこんな泣き顔を、最期に見られなくて残念だったでしょう!
そんな最低なあなたの傍にいたのは、傍にいるときだけ少しの希望みたいなものが見えたから。ヒロインの座なんてもういらない。もっと彼を大切にしてあげたかった。あなたはわたしを抱きしめて、少しでも癒やされていたのだろうか。わたしのように。
レゾンデートル 存在理由。
PR