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【小説】女子高校生

 分厚いハードカバーの本を手に取った。意外と軽い。アーガイルの表紙と気品のある金色のタイトルが欲しいと思わせた。
「買ったって読まないのよね」
 あれもこれも欲しいと思わせる。時にマリー・アントワネットはお読みなさい、と色とりどりのお菓子をつまみながらこちらに語りかけている。それでも迷って古本にかこまれて立ち尽くしていると、ホームズは、無駄な時間はそこら中にありふれている、と教えてくれた。
 でもわたしは知っている。そこにいる友達との会話や、テレビ放送は、思った以上に忙しいものなのだ。
 わたしは普通の女子高校生だから、コンビニの前で甘いミルクコーヒーを飲んでいたっておかしくない。

 欲しい。かわいい本。
 そうやって毎日、何かを手に入れては満足して、すぐ腹を空かす。わたしは普通の高校生だから、好きなものを寄り好んでたくさん食べたいお年頃。だけど大トロが食べられないのだったら、せめてスーパーのネギトロ丼をお腹いっぱい食べたい。

 ああ、でも、たまにはやわらかいお肉も食べたい。

 とは思うけど、料理はとても面倒くさいと思うぐうたらな女子高校生だから、おもむろにブレザーのポケットからケータイを取り出して、メールを打つ。
 数十秒待っても返信が来ないから、ポケットに戻して古本屋から出た。

「わたしのメールに黙って返信さえすりゃいいのに」
 安いネギトロ丼で十分だから、まったく切らさないでほしい。

「ばかじゃないの……」
 ネギトロ丼は、わたしがコーヒーを飲みながら本を読むことに頭がいっぱいで、しかも大トロが本命だと思っていて、そいつにすがって生きていることを知らないのだ。

 次の週にアーガイルの表紙はなかった。
 フィレンツェの商人が一方的に語ることを適当に理解して、ギリシャの白い町並みを買った。

 おもむろにブレザーのポケットからケータイを取り出して、電話をしようとアドレス帳を開いたけれど、やっぱりわたしは普通の女子高校生だから、そっけないメールを打ってポケットにしまった。

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