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【小説】手を繋いでいた瞬間


 何が恨みがましかったのか、これまで生きていて彼女だけは避けていた。

 それは、物心ついた頃からそうだ。
 優柔不断な性格を、母や友に指摘されて、そのうちに、好きなものと嫌いなものをきっぱりと分ける性格になっていた。それでも彼女を分類することが、今まで、できていなかった。そして今もだ。
 幼い頃から悩み続けていた、不思議な感覚。それを「嫌い」というのかもしれない。
 彼女の目線や、声や、行動が、全て気になった。「好き」に近い感情だと思っていたけれど、それとも違う。とにかく、いつもどことなく、「彼女とわかり合える日は来ないだろう」と、そう思っていた。

 字も読めない小さな頃に出会い、何年も同じ場所に通い、時には同じ教室で過ごし、子供の時代を「ずっと一緒に」と言っていいほど傍で過ごしてきた。数え切れないほど接したけれど、それは、どれも外側と外側だけのこと。
 彼女の何が嫌いかと言えば、全てだった。彼女の仕草や話し方、友達、どれも簡単に思い出せることができる。全てが気にくわない。それなのに、彼女の何を知っている、と問われれば、何ひとつ彼女のことを知らない。ただそこに存在していることしか知らない。

 彼女がわたしの世界に関わることを、わたし自身がひどく怖がっていた。
 あれはいつの日だったかわからない。とても曖昧な記憶だけれど、雨が降っている日。裸足だったかもしれない。彼女と、彼女のお母さんは、どうしようもなく幼稚なわたしに言った。
 何かを言った。
 それが、幼稚なわたしを傷つかせたものだったかどうか、正確に思い出せない。それでも、その光景は、今まで忘れることはなかった。雲が空一面に、薄暗い日だった。
 あの日から、彼女を嫌った。他人がわかりえない「自分の世界」があることを知った。その対象や象徴として、彼女を見ていたのかもしれない。あるいは、幼い頃から同じ場所にいることで対抗心があったのかもしれない。仲良くしなければいけないという押しつけを、跳ね返したかったのかもしれない。

 仲良くなりたかった。明るく活発な話し方が良くて、彼女やその友達のような、女子らしい格好や小物や発想に憧れていた。一度は、そういう友達や物に囲まれてみたかった。
 知らないままで、解決しないままで離れていかなければならないことに気づいたとき、後悔した。
 彼女のことを、もっと知りたかった。知っておけば良かった。それからじゃないと、「好き」だとか、「嫌い」だとか決められない。

 厚くて重いアルバムに、なつかしい小学校の正門と、その前に、
 わたしと彼女が手を繋いで立っていた。




手を繋いでいた瞬間




くっつかず 手だけを繋いで 二人はどうして笑っていたんだろう。
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