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【小説】キュート・リトル・ガール


 かおりちゃんは写真を撮るとき、ほっぺに人差し指を当ててニコっと笑う。
 アルバムに貼られた写真を見た。友達の女の子の中でも、かおりちゃんは特に可愛いって思った。


キュート・リトル・ガール


 お母さんと かおりちゃんママは、よく話す。こどもは話に入れないので、かおりちゃんと遊びにいく。
 お母さんもお父さんも、みんな写真を撮るのが好き。
 いつも あたしと、かおりちゃんばっかり。お姉ちゃんが一緒のときもある。
 だんだん、かおりちゃんと同じポーズをするようになった。なんでか恥ずかしいとベロを出してしまうんだけれど、いつもかおりちゃんの隣で可愛いポーズをするようになった。

 かおりちゃんはプールで息継ぎをしながら泳ぐことができた。
 大きなタオルで頭をぐしゃぐしゃ拭かれたあとのかおりちゃんは、長い髪の毛がボサボサだった。
 かおりちゃんの髪の毛は長い。腰まである。ブラシで梳かすと、すぐにサラサラになる。
 プールのあとのかおりちゃんはシンプルだった。頭にちょんとお団子がのってる。可愛かった。

 「ふゆやすみ」の不思議な歌をうたう。楽しいのに寂しいらしい。それって、まだちょっと意味がわからなかった。あたしはこの歌が好きではない。むしろ、きらいだ。
 長いお休みの日だから髪を切る、お母さんはいつも通りそう言った。
「やだ」 あたしは、なんとなくそう言った。お母さんは特に気にする様子もなく、そう? と言ったきりなにも言わなかった。 「ふゆやすみ」が終わった。「ふゆやすみ」の前にもうたった歌を、またうたう。うたわせればいいってものじゃない。先生たち、きっとあたしたちをバカにしている。
 今度は卒園式の歌もうたった。そう何度も繰り返さなくたって、もう覚えてるから違う歌をうたいたい。
「卒園式の前に髪を切ろうか」
 家に帰るとお母さんは言った。
 あたしの髪の毛はいつもよりちょっと長くて、肩についていた。いつもなら髪の長さなんて気にしないから、切ろうって言われたら切っちゃっていたけれど、あたしの中で疑問が湧いた。
「切らなかったら、かおりちゃんみたいになるの?」
「かおりちゃんみたいに、なりたいの?」
 お母さんは、あたしに問いかけた。それから、
「ゆうなは、かおりちゃんみたいに長い髪の毛にしたいのね」
 とほほえんだ。

 卒園式は先生が泣いていた。あとはもう、よく覚えていない。

 卒園してから、かおりちゃんと会っていない。かおりちゃんの写真はいつ見ても、どれを見ても、ほっぺに人差し指を当ててニコっと笑っていて可愛い。

 ある日、お母さんが奇妙な声をあげた。
「ひゃあ、久しぶり!」
「あら! あらあらあら!」
 かおりちゃんママだった。かおりちゃんママも変な声で返事を済ませる。かおりちゃんママは冗談が好きで、おもしろい。でも、あたしはそんなに好きではない。でも、きらいでもない。
 隣には、かおりちゃんもいた。
「あら! かおりちゃん、髪の毛切っちゃったの」
 お母さんがそう言っても、あたしたちは何も言わなかった。
「そうなのよ。ゆうなちゃんのような髪型にしたいって言ってたのよ」
 あたしたちは、互いに見つめ合っていて、でも何も言わなかった。

 二年後、突然あたしたちは一緒に水泳教室に通うことになった。あたしは、かおりちゃんより速く泳げた。かおりちゃんの夢はころころ変わる。マラソン選手とか漫画家とか、とにかくよく変わる。かおりちゃんの持ち物はお洒落で、ハンドミラーとか、ブラシとか、みんな可愛い。それから、こどもブランドとか、ケータイのことでもよく知っている。
 プールのあと、くしゃくしゃになった髪の毛を梳かしていると、
「長いね」
 と、小学校のみんなが言うように、かおりちゃんも同じことを言った。ミディアムヘアーを揺らして、にこっと笑った。何度も写真の中に見た、かわいい女の子。

 かおりちゃんはステキなキュート・ガール。
 あたしの憧れ。



(ゆうなも、負けてばっかりはいられません!)
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