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【小説】手を繋いでいた瞬間


 何が恨みがましかったのか、これまで生きていて彼女だけは避けていた。

 それは、物心ついた頃からそうだ。
 優柔不断な性格を、母や友に指摘されて、そのうちに、好きなものと嫌いなものをきっぱりと分ける性格になっていた。それでも彼女を分類することが、今まで、できていなかった。そして今もだ。
 幼い頃から悩み続けていた、不思議な感覚。それを「嫌い」というのかもしれない。
 彼女の目線や、声や、行動が、全て気になった。「好き」に近い感情だと思っていたけれど、それとも違う。とにかく、いつもどことなく、「彼女とわかり合える日は来ないだろう」と、そう思っていた。

 字も読めない小さな頃に出会い、何年も同じ場所に通い、時には同じ教室で過ごし、子供の時代を「ずっと一緒に」と言っていいほど傍で過ごしてきた。数え切れないほど接したけれど、それは、どれも外側と外側だけのこと。
 彼女の何が嫌いかと言えば、全てだった。彼女の仕草や話し方、友達、どれも簡単に思い出せることができる。全てが気にくわない。それなのに、彼女の何を知っている、と問われれば、何ひとつ彼女のことを知らない。ただそこに存在していることしか知らない。

 彼女がわたしの世界に関わることを、わたし自身がひどく怖がっていた。
 あれはいつの日だったかわからない。とても曖昧な記憶だけれど、雨が降っている日。裸足だったかもしれない。彼女と、彼女のお母さんは、どうしようもなく幼稚なわたしに言った。
 何かを言った。
 それが、幼稚なわたしを傷つかせたものだったかどうか、正確に思い出せない。それでも、その光景は、今まで忘れることはなかった。雲が空一面に、薄暗い日だった。
 あの日から、彼女を嫌った。他人がわかりえない「自分の世界」があることを知った。その対象や象徴として、彼女を見ていたのかもしれない。あるいは、幼い頃から同じ場所にいることで対抗心があったのかもしれない。仲良くしなければいけないという押しつけを、跳ね返したかったのかもしれない。

 仲良くなりたかった。明るく活発な話し方が良くて、彼女やその友達のような、女子らしい格好や小物や発想に憧れていた。一度は、そういう友達や物に囲まれてみたかった。
 知らないままで、解決しないままで離れていかなければならないことに気づいたとき、後悔した。
 彼女のことを、もっと知りたかった。知っておけば良かった。それからじゃないと、「好き」だとか、「嫌い」だとか決められない。

 厚くて重いアルバムに、なつかしい小学校の正門と、その前に、
 わたしと彼女が手を繋いで立っていた。




手を繋いでいた瞬間




くっつかず 手だけを繋いで 二人はどうして笑っていたんだろう。
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【小説】ある平穏な日曜日のこと

 走れるようになったのが嬉しいのか、二つボンボンのついたヘアゴムを揺らしながら小さな女の子が、ドテン、と前に転んだ。泣き出すか。僕は頬杖をつきながらストローをくわえつつ待っていた。
 すく、と上げた顔は意外にきょとんとしていたのに、だんだん瞳に涙をいっぱい浮かばせて、一瞬だけものすごくイヤな顔になった。しかしそれからすぐに立ち上がり、また走り出す。
 僕はそれを見送ってから、コーラを飲み下した。
 久しぶりに出向いたデパート。ペットショップで子犬をみて回ったあと、フードコートとガラスで挟んだテラスでボケーと座っていた。
「ポテトいらないの?」
 母の言葉にはっとして目の前にあるポテトを口にほうり込む。
「あ、あああふっ」
 熱いっ……!
「バカねえ」
 まわりでたくさんの人が会話をしている。人が声を発して、機械が音を発して、ものとものがぶつかる。雑音は、意識を記憶の海へ追いやった。


ある平穏な日曜日のこと


 小学生の頃、隣の隣の隣の部屋に二歳年下の女の子がいた。たまに一緒に遊んでた。笑顔の可愛らしい子だった。ふと、なんでだろう、最近見かけないなあと僕が呟くと、母は言ったっけ。
「この前に引っ越しちゃったよ、知らなかったの?」
 ――僕はあのときの脱力感というか、喪失感、あっけなさ、ただ唖然とするしかなかった気持ちを今でもはっきりと覚えている。引っ越すってのは知っていたけど、人が引っ越すことを知らなかったというか、近所の子がどっか行っちゃうなんて思ってなかったからだ。レゴブロックの、たまーに使う部分をなくしたような。もう何年も経った今、やや埃かぶったテラスのテーブルでコーラを飲みながらも、僕はあの時の喪失感を思い出していた。

 キャン!

 突然、耳に突き刺さるような子犬の鳴き声。斜め下に目をやると、なぜか僕に向かって絶え間なく吠えている犬がいた。
「ほうら吠えんな、こら」
 背の高く細身の、お洒落な兄さんがリードを引っ張っていた。
 家の前にいたコリーとじゃれて満面の笑顔だった、もう名前も思い出せないあの子。引っ越す前日にわざわざ僕を呼び出して遊んだあの日も彼女はあの吠えるばかりの犬を馴らしていた。
「わり、ごめんな」
「いえ、平気です」
 僕に吠える子犬を見下ろす。こいつも大きくなるんだな。
「アスカ。ほら行くぞ」
 リードを引っ張られUターンし去っていくそいつに、立派な犬になるんだぞ。なんて心のなかで呟く。
「ふふ、あんた昔からよく犬に吠えられるね」
「うう……」
「あの犬、むかし家の前にいた犬と同じよね。そういえばあそこの犬っていつの間にかいなくなっちゃったよね。死んだのかしら。むかしはよく吠えてたのにね」
「しらねー」
 そういえば、あの犬もいつのまにかいなくなってしまった。みんな何処に行ったんだろう。


 ……あの子は今頃どうしているだろう。
 大きくなっただろうか。美人になっただろうか。あの綺麗で長い髪は健在だろうか。いつまでもあの笑顔で笑っているだろうか。

【小説】ふたりひとり


           ふ た り ひ と り

あるところに なかのいい兄弟がいました
兄弟は いつも いっしょにいます
ふたりは おたがいのことを 自分のことのように たいせつにしました
ある時 おわかれの日がやってきました
「いやだ いやだ」「ひとりはいやだ」
兄は言いました
「それなら ふたりで だれもいないところに行こう」
ふたりは はなればなれに なる前に だれもついて行けないところに
きえてしまいました


あるところに なかのいい兄弟がいました
兄弟は いつも いっしょにいます
ふたりは おたがいのことを 自分のことのように たいせつにしました
ある時 おわかれの日がやってきました
「いやだ いやだ」「ひとりはいやだ」
ある朝おきたら ふたりはひとりずつになっていました
なんかい朝がきても もうひとりの自分はいませんでした


やがてこころもからだも大きくなりました
ふたりはひとりで歩けるようになると もうひとりの自分をさがしにいきました
そのうちみつからなくて泣きだしました
けれどふたりは おたがいをさがしつづけました
ある時ふたりは うまれたおうちをおもいだしました
「きっと おうちにかえれば ふたりはひとり」
ふたりはうまれたおうちにむかって あるき出しました

ある朝おきたら ふたりはいっしょにいました
いつまでも ふたりはいっしょにくらしました



まよいなんて どこにもなかった  ぼくらの分だけ ぼくらの道があったのだ

【小説】ガール・フレンド、



「転ぶぞ、鞠奈」
 足下にある犬の咥えていたボールに気づいていない。
「あだっ」
 どてんと転ぶんで犬にまで見下ろされている。
 どう考えてもオレより下等のイキモノだ。普段は健気に恋する女を気取ってみているくせに、ほら、どちらが遊ばれているのかわからない。
「ううー……」
 見ろ、こんなふとしたときの不格好さときたら。
「なんですか先輩。なに見てるんですか。あ、笑わないでくださいよ!」
「似ているなあ……こいつら……」
「何か言いました?」
「いや」
 俺はバカな犬を二匹も飼っているようだ。

 家の外に出ると、どうも無意識のうちに『他人と接する自分』になることは気づいている。いや、大抵の人がそのようだ。しかし考えると外に出ているときのほうが長い。だから本当の自分がどちらかともよくわからないものだが。とにかく外にいるときは家にいるときのだらしないような仕草は、上手い具合に現れないものだ。
 鞠菜の前ではそんな振る舞いをしなくてもいいと自然と思っている。兄や犬と二人きりでいるような感じだ。
 これに気づいたのは先ほど、顔面を床に打ち付け不細工な顔をしている鞠奈の頭を、ふいに撫でたくなった時。だってあまりにも俺の馬鹿犬に似た顔をしてやがったから、つい。

「おい、もう暗くなってんぞ。帰った方がいいんじゃないか」
「ばかにしないでください、まだ五時じゃないですか。わたし高校生ですよ」
 鞠菜の目はまだ赤みを帯びている。
「それともそんなに帰ってほしいですか」
「別に。好きにしろ」
 で、また赤が増していく。すぐ後ろの犬に向きなおってしまったが、涙は溢れただろうか。
 泣かないでほしい。泣いているヤツはきっと辛い。悲しくて涙を零している。涙が込み上げる時の気持ちは俺にだって十分わかる。だから、泣かないでほしい。
「おんなのひとだね」
 鞠奈が振り返らぬまま、俺の持つ受話器から漏れる声に反応する。
 相変わらずこの女の声はうるさい。
「わかった、わかった待ってるから」
 電話に適当に答えて相手の返事など聞かずに切る。
「明日香さん?」
「いいや。……悪いな、これから友達が来るから、そろそろ退いてくれ」
「うん」
 なぜか今日は素直にそう頷いて荷物をまとめ始めた。
「新しい彼女?」
「………」
 ああそうだ、と言ったらコイツはまた泣くだろうか。
「楽しく無さそうですよ」
「そんなことない」
「わたしは明日香さんの方が好きです」
「関係ないだろ」
 今から飛び込んでくるだろう勘違い女に余計に怒鳴り散らされたくないっていうのに、今日はやけに帰り際に話しかけてくる鞠奈。なんでかな女ってこうなると、こちらがそうだなと言うか無理やり丸めくるんで黙らせるまで決着を付けたがらないんだから……。
「いいですよ。わたしはまだ、お子様ですから。おとなしく帰ります」
 めずらしく相手してあげようと思ったらそっぽを向いた鞠奈に拍子抜けする。
「今日は潔いんだな」
「わたしあなたにできないことできるの気づいたの」
「お前にできて俺にできないことなんてないだろ」
 あまりにも得意気な顔をするから言ってやると、すかさず鞠奈はこう言った。
「ある。わたしはあなたを愛せる」
 俺が小突く前に、ふ、と悲しい顔をすると、
「あなたが愛せないあなたを、わたしは愛することができるんですよ」
 そう言いながら踵を返して去っていった。そんな鞠奈の背中に、「生意気なやつ」と呟くことしかできない俺は、なかなかこの世も自分自身さえも愛せなかった。


「ちょっと、せっかく今日は機嫌が良いからケーキ三人分買ってきたのに、どうしてくれんのよ。マリちゃんいつにもまして涙目だったの、また何か言ったんでしょ。なんで後輩に優しくできないの」
「なんでおまえ来るの」
 別に鞠奈が嫌で帰したわけじゃない、なんか、ほら、お前のもんじゃないのに勘違いしてる女っているじゃねえか。そいつに鞠奈が睨まれたら可哀想だと思っただけなのに。とにかく、こういうふうな厄介事を避けたいから俺ひとりになったのに。
 去り際おまけにと思いっきりビンタされた頬をさする。
「いいでしょう、あんたは女の一人や二人、気にしないで」
「明日香……来るなら来ると」
「約束があるならあると言いなさいよ」
 どうでもいいが、もうすこし空気を読んでほしかった。
「まあ、いいけどさ。あいつやたらと電話してきてうるさいし。おもしろいヤツなんだけど、どっか自分しか見えてないところ嫌い」
 明日香に追い払われて、これでもう懲りてくれればいいんだが。
「楽しそうでいいわね」
「でもああいうタイプは約束を破ったとか捨てられたとか言うんだぞ。理不尽な恨みを買うのは俺なんだぞ」
「わからなくもないけど、無防備にして女を近づかせないことね。あんたは何考えてるのかわからなくて、接してるこっちはなんだかイライラするもんなのよ」
「みんな勝手すぎる。自分しか見えてないったら」
「あんたがだらしないだけ」
 女のそういうところが嫌だ。みんなそうだ。勘違い生物め。


「あんた、捨てた犬が何度でも帰ってくると甘えてちゃダメだよ」
「なんのことだよ」
「山奥に捨ててくれば帰って来られないのに、あんたがどこか甘えて近所の公園なんかに捨ててくるから何度だって帰って来ちゃう。全部が全部、帰ってきてしまうマリちゃんのせいだなんて無責任なこと思ってんじゃないのよ」
「くっ……」
 君の説教口調は相変わらず。
「何その気持ち悪い笑い」
「なんでもない」
「なあに、人が真剣に話してるのにおもしろそうに」
「いや、犬なんだな、って」
「はあ?」
 君は不愉快そうに眉を寄せる。
「あんたがね、取ってこいと言えばボールを持ってくるのよ」
 そうか、そうなのか。
「それが今日な、めずらしく俺にはむかいやがった」
「あら、マリちゃん何て?」
「わからない、幼い女の考えることは」
「聞かせてよ」
「もう覚えてない」
 あなたの愛せないあなたを愛することができる。
「思い出せないよ」
 明日香の持ってくるやつはいつも甘すぎる。俺は部屋の隅の冷蔵庫からビールを取り出しに立ち上がる。
「年下の若い子が恋しくなったって、もうどうしようもないんだから。マリちゃんを傍に置いておけばよかったなんて、後悔しても知らないわよ」
「しないよ、俺は」
 後ろからの忠告の声はつづく。
「わからないやつね、自分を理解してくれる女がどこかにいるとでも思ってんじゃないよ。それだから女どころか男の友達だってろくにできないんでしょうね。人間は目で見て声を聞いてあんたを理解してるんだから少しくらい愛想笑いでもしたらどうなの」
「いいよそんな疲れることするかよ。今でも十分やれてるよ」
 君のため息が背中に降りかかる。
「いつも正反対の言動なんだから」
 俺を理解してくれる人、か。
「そんなだから、だれにも理解してもらえないのよ」
 ……本人は気づいていないようだけれども。
「ちょっと、聞いてるの?」
 皮肉なもんだ。こんなに近くにいるのに。
「もうやめなさいよ」
 俺の持つ缶を睨む君。君が女だから俺はどこまでもアルコールが足らないんだよ。俺が心を広くして決着つけてやらなきゃならない。
「別にさ、俺は鞠奈、好きだよ。おまえよりずっと俺を愛してくれているしね」
 視線が俺の手元から目に移った。
「そうよ。そうでしょ。最初からそう言っとけばいいの」
 彼女は満足げに微笑んだ。机の上にぽんと置いてある彼女の手。その手に自分の手を重ねようとして――すれ違った。彼女はその手で横髪を耳にかけ、両手でグラスを傾けた。
 俺を理解してくれる人は、いつも君だった。そんな君は、「あなたって、本当にわけわかんない」と否定の言葉を発する。


     ガール・フレンド、

              「独りの君こそ俺にどうしてほしいんだい?」
                    眠ってしまった君にその言葉はまたしても届かない。

【小説】キュート・リトル・ガール


 かおりちゃんは写真を撮るとき、ほっぺに人差し指を当ててニコっと笑う。
 アルバムに貼られた写真を見た。友達の女の子の中でも、かおりちゃんは特に可愛いって思った。


キュート・リトル・ガール


 お母さんと かおりちゃんママは、よく話す。こどもは話に入れないので、かおりちゃんと遊びにいく。
 お母さんもお父さんも、みんな写真を撮るのが好き。
 いつも あたしと、かおりちゃんばっかり。お姉ちゃんが一緒のときもある。
 だんだん、かおりちゃんと同じポーズをするようになった。なんでか恥ずかしいとベロを出してしまうんだけれど、いつもかおりちゃんの隣で可愛いポーズをするようになった。

 かおりちゃんはプールで息継ぎをしながら泳ぐことができた。
 大きなタオルで頭をぐしゃぐしゃ拭かれたあとのかおりちゃんは、長い髪の毛がボサボサだった。
 かおりちゃんの髪の毛は長い。腰まである。ブラシで梳かすと、すぐにサラサラになる。
 プールのあとのかおりちゃんはシンプルだった。頭にちょんとお団子がのってる。可愛かった。

 「ふゆやすみ」の不思議な歌をうたう。楽しいのに寂しいらしい。それって、まだちょっと意味がわからなかった。あたしはこの歌が好きではない。むしろ、きらいだ。
 長いお休みの日だから髪を切る、お母さんはいつも通りそう言った。
「やだ」 あたしは、なんとなくそう言った。お母さんは特に気にする様子もなく、そう? と言ったきりなにも言わなかった。 「ふゆやすみ」が終わった。「ふゆやすみ」の前にもうたった歌を、またうたう。うたわせればいいってものじゃない。先生たち、きっとあたしたちをバカにしている。
 今度は卒園式の歌もうたった。そう何度も繰り返さなくたって、もう覚えてるから違う歌をうたいたい。
「卒園式の前に髪を切ろうか」
 家に帰るとお母さんは言った。
 あたしの髪の毛はいつもよりちょっと長くて、肩についていた。いつもなら髪の長さなんて気にしないから、切ろうって言われたら切っちゃっていたけれど、あたしの中で疑問が湧いた。
「切らなかったら、かおりちゃんみたいになるの?」
「かおりちゃんみたいに、なりたいの?」
 お母さんは、あたしに問いかけた。それから、
「ゆうなは、かおりちゃんみたいに長い髪の毛にしたいのね」
 とほほえんだ。

 卒園式は先生が泣いていた。あとはもう、よく覚えていない。

 卒園してから、かおりちゃんと会っていない。かおりちゃんの写真はいつ見ても、どれを見ても、ほっぺに人差し指を当ててニコっと笑っていて可愛い。

 ある日、お母さんが奇妙な声をあげた。
「ひゃあ、久しぶり!」
「あら! あらあらあら!」
 かおりちゃんママだった。かおりちゃんママも変な声で返事を済ませる。かおりちゃんママは冗談が好きで、おもしろい。でも、あたしはそんなに好きではない。でも、きらいでもない。
 隣には、かおりちゃんもいた。
「あら! かおりちゃん、髪の毛切っちゃったの」
 お母さんがそう言っても、あたしたちは何も言わなかった。
「そうなのよ。ゆうなちゃんのような髪型にしたいって言ってたのよ」
 あたしたちは、互いに見つめ合っていて、でも何も言わなかった。

 二年後、突然あたしたちは一緒に水泳教室に通うことになった。あたしは、かおりちゃんより速く泳げた。かおりちゃんの夢はころころ変わる。マラソン選手とか漫画家とか、とにかくよく変わる。かおりちゃんの持ち物はお洒落で、ハンドミラーとか、ブラシとか、みんな可愛い。それから、こどもブランドとか、ケータイのことでもよく知っている。
 プールのあと、くしゃくしゃになった髪の毛を梳かしていると、
「長いね」
 と、小学校のみんなが言うように、かおりちゃんも同じことを言った。ミディアムヘアーを揺らして、にこっと笑った。何度も写真の中に見た、かわいい女の子。

 かおりちゃんはステキなキュート・ガール。
 あたしの憧れ。



(ゆうなも、負けてばっかりはいられません!)

【小説】border line

 ぴんと直線に張った糸が弛むこともなく張りすぎることもなく。俺は常に一定の距離から、おまえの笑顔を見ていた。どうでもいいくらいに、おまえのダメさも知っている。だから、どうでもいいくらいにお前のことなんかどうでもよかった。


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 ボ ー ダ ー ラ イ ン


 夏。太陽の光はきらめいていて、都会の空気はうざったいほど水分を含んで熱くなっている。
 俺は素振りをしていたバットをおろして、歩道の段差にただ座っている然(ぜん)に向いて言った。
「もういいよ」
「あ?」
 同じく夏の空気にいらいらしているだろう然が、不機嫌に応える。
「もう応援、来なくて、いいよ」
 然は少しの間だけきょとんと目を丸くして、立ち上がりながら俺に聞く。
「なんでだよ」
 俺は空中を仰いだ。が、息苦しさは変わらない。
「俺、帰る。疲れた」
 土曜日の昼下がり。猛暑の季節。道行く人も見えない。俺は数メートル先にある自分の家に向かって歩き出した。後ろからいろいろ問う声が聞こえる。聞き飽きた然の声。
 夏の日差しに、空気に、俺のバット、白い球、グローブ、歓声。全て。お前の隣の、笑顔。全てに、俺はいらいらしていた。
 涼しい部屋のドアを閉めると、暑い空気と共にそれら全てが遮断される。
 ざまあみろ、そんな気分だった。なのに、寂しい。
 よく解らない気持ちのまま、そこに立ち尽くす。
 いつだって、こうやって全てを遮断することはできる。全ての関係を自分から断ち切ることはできるのだ。ああ、日差しが強すぎたわけじゃなかった。いつもより気温が高いわけではなかった。バットの芯でボールを弾く音。ボールが丁寧にグローブの中に収まる音。俺はよくやった。点数が少ないわけでも、結果が悪いわけでもなかった。

 俺はきっと、然の隣の笑顔が気に入らなかったんだ。
 ちょっとした公園のグラウンド、その日陰の応援席に座っている然と佑梨。俺の名を呼んで、励ましてくれる然。その、隣にいた佑梨は、なんで俺を見ていない?
 然を見る、佑梨の笑顔が脳裏から離れなくて――。

 近すぎず遠すぎず、お前は俺といつも平行だった。
 どうでもいいくらいに、平行だった。
 どうでもいいくらいに、交わらず、反れず、大切な親友だった。
 糸が、ぴんと張りつめた。きっと、俺が引っ張っているからだ。もう、なにもかも捨ててしまいたい。息苦しい。張りつめた糸を断ち切ってしまいたい。

 携帯電話が鳴っていた。聞き慣れたメロディに引き寄せられるように、俺は携帯電話を手にする。
「今、大丈夫? 今日は大活躍だったね」
 佑梨の、高く澄んだ、嬉しそうな声。
「自主練、いつも頑張ってるんだってね。わたしも呼んでよ。付き合ってあげる。休みの日はいっつも暇だから。あ、体力はあるんだから」
 佑梨が言葉を繋げていく。
「別に、つまんないよ」
「いいの、いいの」
「でも……」
「あ、じゃまになる? ならいいの」
 それもそうかもしれない。けれど、俺がじゃまでじゃまと言えるのは、おそらく然だけ。
「夕方だし……」
「全然問題ないよ、大丈夫。わたし暇なんだ。あー、わたしも少しは走ったりしなきゃなあ……もう部活ない日はダラダラ。うちの陸部ってたいしてハードじゃないし。いつがいい? いつやる?」
「なら、来週の週末でも」
 それは俺にしても佑梨にしても、休日を一緒に過ごす口実でしかないことを、もう知っていた。
 すごく不安定な佑梨と俺の仲。それは、だんだん近づいていることに変わりはなかった。そこに然が入ってきたって、俺と然は平行で、佑梨と然も平行だ。
 わかっていた。
 佑梨の声を聴きながら、後悔する。なにをそんなにイライラしていたんだろう。なにをそんなに……心配していたんだろう。
 肌寒いくらい冷えた部屋で、俺は冷静に、俺に呆れていた。なんにも知らない佑梨の声がする。俺が好きな佑梨の声がする。
「それにしても、深鳴くんは巧弥のこと何でも知ってるんだね。今日すごい聞いちゃった。巧弥のこと、すごい慕ってるっていうか。ホントいい親友というか。聞いてて嬉しくなっちゃう」
 俺は、俺たちは今まで、どうでもいい関係なんだと思っていた。でも然は違った。
「そう……だな。どうでもいいくらいに思えるほど親友?」
「いいね、すごいね、そういうふうに言えるって。かっこいーなあ」
「そうか?」
「うん。憧れる。そういう友達がいるってのは、すごく良いことだと思うの。わたしには、うーん……いるかなあ」
「いるだろ、藤沢とか」
「ああうん、あの子は確かに良い子。……うん。そうだね……」
 しばらくの沈黙と、電話越しに感じる俺と佑梨との間の掴めそうなくらい熱く水気を含んだ空気。
「じゃあ……またね」
 俺はいつもそこでもがいて、もがいて。今、その先にある向こう側の世界に出られそうな気がした。今なら手がとどくような錯覚を見た。
「佑梨! あの、佑梨……俺、佑梨が好き。……で、だから……」
 だから何だと言われれば、どうしようもない。
「あ……」
 詰まった佑梨の声。
 でも俺は、言わなきゃいけなかった。
 不器用な俺だから、いつまでも平行を保ち続ける関係なんて、然とだけでじゅうぶんだ。
 しばらく経ってから聞こえた、佑梨の悔しそうに小さな声。
「先に、言われちゃった……」


 俺はどうしようもなくなって部屋を飛び出し、熱い空気へと飛び込んだ。家の前には、まだ然が、暑い日差しを浴びながら何をする出もなく突っ立っていた。
「どうした?」
 俺にぱっと笑顔を作って聞いてくる然。
「何か良いことでもあったか?」


 世界が、眩しい。


 親友はいつも蜃気楼の向こう。それは自分に似た水蒸気に揺らぐ人。
「……いや」
 俺につられたように照れ笑いをする然。
 いつもと変わらない真夏日だった。

慎矢くんの憂鬱


ひさびさに更新してみてしまった

柏尾 慎矢 が
樫尾だったり慎也だったりしていたまま放置していました
特に説明文ははじめ慎也だったのでぜんぶ慎也orz

むーん 慎矢ごめん
慎んで真の心に矢を射る
うそつき慎矢くん

どうぶつ島の宝物


秀也(しゅうや)
 頭は良いけどだらしない


 だれかとかぶってた気がする

どうぶつ島の宝物


葉月来(はづき)
 黒髪ツインテール、ひとむかし前の小学生
 強引でわがまま
 しっかり者で好奇心旺盛

翠子(みどりこ)二世

媛月のiPod nano(三世代)。
二世代と比べて少しおだやかな性格になったみたい。
英語は得意だけど漢字は苦手。

寝起きの機嫌が悪い。たまにツーンとする。
見た目によらずハードでパンクな歌が好きだったりして、たまにCrazyな英語歌詞とか歌う。
得意なのは高音の曲と世界の国家。合計で1000曲くらい歌える。
とても音質にこだわる。歌詞やジャケ画なんかも必死に埋める。けどジャンルはめんどくさすぎて放棄。
無駄にプレイリストをつくって整理整頓する癖がある。
飾るのがきらい。後ろ髪が長い。(シルバーだからネギは持たない。)
クイックホイール→◎が敏感すぎて思うように動かない。

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